輸入や使用、所持が禁止されている「指定薬物」である、いわゆる〈ラッシュ〉(RUSH)を、海外から個人輸入しようとした男性の「【千葉】ラッシュ裁判」のオンライン報告会が、以下のとおり開催されました。
日時 2020年9月5日(土)14時~15時30分
オンライン配信(要申込)(無料)
主催・問い合わせ ラッシュ(RUSH)の規制を考える会
日本薬物政策アドボカシーネットワーク 足湯cafe&barどん浴
約40名の申込(配信中の申込もありました)があり、多いときで約30名(出入りがありました)の方に視聴いただけました。
対面でないと伝わりにくい面もありますが、オンラインだからこそ、参加できた北海道、沖縄などの方もいらっしゃいました。
半分以上が、ラッシュ裁判のイベントに初参加のようでしたので、ラッシュ裁判やラッシュの基本的な情報もお伝えするように心がけました。
しかし、後半の意見交換が、もう少し出来たらとも感じました。
今回は、主に「判決解説」を中心に報告します。
1 趣旨説明 塚本堅一(元NHKアナウンサー)
フライヤーの文章紹介
2 裁判の意義 森野嘉郎(弁護士)
まず、主任弁護人である森野弁護士より、
1この裁判は、ラッシュの規制自体の問題性を争う日本で初めての裁判であること
2問題点としては、薬物の害よりも規制が重すぎる法体系になっていること
3国の決めた規制だから仕方ないのかと思考停止になってしまわないことの大切さ
4裁判だけでなく社会の中で議論してほしいこと
が述べられました。
3 ラッシュっていいの?ダメなの? 塚本堅一
日本薬物政策アドボカシーネットワークが今回のイベントに合わせて作成したカラー資料を示しながら、
ラッシュの基本情報をお伝えしました。
4 判決の内容の解説 加藤慶二(弁護士)
次いで、裁判の主張と判決の内容を、加藤弁護士がレジュメに基づいて解説しました。
以下は、そのレジュメ内容です。
第1 前提知識の整理
1 指定薬物とは
当該薬物が
①中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む。以下「精神毒性」という。)を有する蓋然性が高いこと
②人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物であること,
③薬事・食品衛生審議会の意見を聴いたうえで
④厚生労働大臣が指定していること
→①~④の要件を満たすものが「指定薬物」となる。
2 指定薬物を輸入すると・・・
懲役3年以下・罰金300万円。
3 弁護人の言い分
厚生労働大臣は,平成19年2月に亜硝酸イソブチルが「指定薬物」であると指定しましたが・・・
・そもそも犯罪になる以上、ここで想定される「指定薬物」というのも、例えば麻薬とか向精神薬と同等の危険な薬物を想定すべきではないか。
・亜硝酸イソブチルを摂取しても、麻薬や向精神薬に匹敵するほどの中枢神経系への興奮作用、抑制作用だったり,はたまた幻覚を覚えるような作用はないのではないか(精神毒性がない)。
・ラッシュを摂取しても、自分、他人を傷つけないはずだ!
・審議会で本当に丁寧に議論したのだろうか。
・アルコールやタバコは人体に有害だが、「指定薬物」になっていない。「指定薬物」として指定されるかどうかの基準は極めて曖昧。厚生労働大臣が恣意的にラッシュを処罰の対象にしたのではないだろうか。
第2 判決の内容
1 裁判官は、上記の要件①~④の判断についてどのようなスタンスで臨むか
裁判官は、上記①~④があるかどうかについて踏み込んで判断することは控えたい。裁判所が当時の判断について正しいかどうかを独自に調査するのではなく、厚労相がそのように判断したことに合理性があるかを事後的に振り返れば足りる。
2 「精神毒性」について
・別に麻薬や向精神薬に匹敵するような薬物でなくてもよい。
・中枢神経系に影響することは直接的な作用でなくても、間接的な作用でも足りる。
3 保健衛生上の危害について
・当時、参照された論文には,ラッシュを摂取すると「軽い頭痛・目まい・動機・ふらつき」「もっとしつこいズキズキした頭痛・吐き気・嘔吐・虚弱,失神・落ち着かなさ・悪寒・本人が意図しない排便排尿」などが発生すると書いてある。
・誤飲して、呼吸停止となって死亡した事例もある。
・ラッシュを摂取したことで病院に運ばれている患者が少ないが、病院に運ばれていないだけで何か健康に被害が発生しているかもしれない。
4 審議会の議論
・活発な議論はされていないが,全く議論されずに指定されたわけでもない。
5 裁量権の逸脱乱用の判断基準はこれでよいのか
・厚生労働大臣が様々な観点から、どの薬物を「指定薬物」にするか決めるのだから、その判断は基本的に尊重したい。
・ただ、例えば、厚生労働大臣がヨコシマな気持ちをもって指定したとか、ラッシュに関する資料を捏造したうえで指定したとか、よほどの場合があればそれが違法ということにはなる。
・今回はよほどの場合ではないから、厚生労働大臣の判断を尊重したい。
6 量刑
・明確に「これは悪い薬だ」と思ってはいなかった。けれども、酌量の余地はない。
・何度も輸入を試みたことは、犯罪をしようという気持ちが極めて強いと言わざるを得ない。
・仕事に関して懲戒免職。
7 結論
懲役1年2月。執行猶予3年間。
※覚せい剤事犯とそこまで変わらない印象。
第3 問題点(ここはレジュメは空欄でしたので、当日の発言を要約して報告します)
・裁判官のスタンスだと、行政(政府)が一度決めたことはよほどのことがない限り、お墨付きを与えてしまう。
・裁判官はもっと踏み込んで吟味・チェックする必要がある。
・控訴審ではその点を問題視していきたい。
5 被告人のコメント ヒデ(ラッシュ裁判被告人)
次いで、被告人のヒデより、
・法律上の不備があったから無効であると訴えてきたこと
・重い判決が出てしまい身に沁みたこと
・裁判官から「遵法意識が低い」と質問されたことに対する「被告人陳述」の内容紹介
・ラッシュ使用当事者の思いをどれだけ酌んでくれるか期待したが酌まれなかったこと
・ラッシュアンケートの当事者の紹介
・Yahooニュースのコメントに見る裁判に批判的な世論の紹介
🔊https://news.yahoo.co.jp/articles/9c59f7fa47ba370c5fd8feab251e32bc044bb267
がされました。
6 傍聴者からのコメント 淘汰さん(支援者)
次に、裁判の傍聴をしてくれてきた支援者の淘汰さんから自身の体験を含めてコメントをもらいました。
🔊ギフト(ある依存症者の終わらせたい日記)https://ultrakidz.hatenablog.com/entry/2020/09/06/135636
7 控訴に向けて 服部 咲(弁護士)
次に、控訴に向けて今後の動きについて、服部弁護士より
・控訴書面の作成中で10月25日までに提出すること
・ラッシュアンケートの提出を考えていること
・規制をした審議委員へアプローチしていること
・海外の法制度の調査(イギリス・オーストラリアなど)をしていること
・控訴裁判が始まるのは11月か12月ころか
という点が話されました。
8 ラッシュ逮捕者の手記 Bさん
次に、東北地方在住で、2016年にラッシュ事件で逮捕・実名報道されたBさんの手記を塚本さんが代読しました。
9 【横浜】ニトライト裁判について 服部啓一郎(弁護士)
次いで、【横浜】ニトライト裁判について、服部啓一郎弁護士より、概要が紹介されました。
この後、参加者から質疑応答を受け、15時40分ころに終了しました。
質疑応答については、改めて報告します。
当日の配信内容は、編集のうえアーカイブ化して配信する予定です。
しばらくお待ちください。
【横浜】ニトライト裁判次回公判
「ニトライト」(亜硝酸イソプロピル及び亜硝酸イソペンチル)を海外から個人輸入・所持したとして、医薬品医療機器等法並びに関税法違反に問われ、罰金刑の略式命令を受けた男性が、それを不服として争っている「【横浜】ニトライト裁判」の公判が、以下のとおり開かれます。
日時 2020(令和2)年10月2日(金)午前
※詳細は被告人のプライバシーの観点からお問い合わせください
内容 論告弁論 1検察官による論告・求刑
2弁護人による最終弁論
3被告人陳述
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