横浜地方裁判所川崎支部で、「ニトライト」(亜硝酸イソプロピル及び亜硝酸イソペンチル)を海外から個人輸入・所持したとして、医薬品医療機器等法並びに関税法違反に問われ、争っている【横浜】ニトライト裁判の判決公判が、以下のとおり開かれました。
判決は「罰金80万円」、弁護人の「無罪」を退けた形となりました。
ここでは、被告人Mさんの「当事者としてのコメント」を掲載します。
Mさんの場合、「セルフメディケーション」を目的として輸入していたと認識している点が、大きな論点となるかと思います。
日時 2020(令和2)年12月4日(金)午後
内容 有罪判決「罰金80万円」
【1】
今回、私の「当事者の声」として偽りなくお伝えいたします。
二トライト(Rush)は、多くの男性が、性行為のために購入していたということを知りました。
やたらと「男性同士の性行為」という記事が多く書かれていて、差別偏見につながると考えました。
夫婦の性行為で購入して有罪・無罪のケースもございますし、女性同士の性行為で使用した人もいたかもしれません。
とりあえずは「性行為」「セックスドラッグ」目的の購入が大半であることは理解できました。
しかし私は、違うケースで略式命令(罰金)を受けました。
私は当時、うつ病・双極性障害2型と診断されました。以前は「リタリン」という処方薬を服用されていましたが、ある問題が起きて処方されなくなりました。
他の処方薬が効かず、多剤併用になり、仕事、身体活動もできないレベルまで落ちてしまいました。
ある大学病院で、入院なども視野に入れ治療をしてきましたが、あまり改善が見られませんでした。
そのような中で「二トライトは気持ちを高揚・意欲が増進する」「筋弛緩のリラックス効果がある」というネット記事を見て、きちんとした実店舗が英国・フランスにあると知りインターネット購入に至りました。
「うつ病を改善させるため」に購入しましたが、9割程度の方は「性行為」のために購入していると知りました。
きっと私のように「精神的な問題」「心身の問題」をどうにかしたい切実な思いで購入する人もいると考えます。
他の裁判を傍聴していく中で、ある検察官が論告で「二トライト=性」のことをかなり大袈裟に言う姿を見てきました。
日本ではなぜか「性」をタブー視する傾向があります。
ほんの些細なことでも「いかがわしい・・・」と言われがちな国民性だと思います。
一昔前、渋谷で若者に人気の「性の悦びおじさん」の方のように、堂々と発言できる社会が望ましいと思います。
私の「性」に対する意見は脇に置き、お話を進めさせていただきます。
【2】
私自身は「リタリン」という処方がされなくなった薬の代用として、ネットを通じて二トライトを知るようになり購入しました。
8年前(2012年)頃、社会的背景として「個人輸入」という言葉が周知されていて、2018年頃「セルフメディケーション」という言葉もマスコミ、社会市場で耳にすることが多かったと記憶しております。
私自身も「USサプリンクス」「オオサカ堂」を頻繁に利用してUS、シンガポール、香港、スペインなどから購入しておりました。そのため輸入行為は自分の中でごく当然、日常のこととして行っておりました。
【3】
当然、リタリンとは成分は違うものですので多少効き目の感覚は違いましたが、「うつ病」「双極性障害Ⅱ型」の症状にはかなりの効果がありました。
いわゆる健康な方からすれば「セックスドラッグ」になるのかもしれませんが、精神的に落ち込んでいる者の立場からすれば、「パワフルな状態」になることを切望していました。さすがに「パワフルな状態」までとはいきませんでしたが、1日の生活リズムが整えられるようになりました。当時の現状から打破したい気持ちから輸入・購入しました。
その面では二トライトは、自己にとって必要なものとして購入を続けてしまいました。
【4】
2018年秋に家宅捜索がありました。「薬機法」「関税法」違反に加えて「向精神薬取締法」と「覚せい剤取締法」違反の容疑もかかりました。後者2つの容疑は何もないと言われました。
二トライトがゲートウェイドラッグになっていることも、このとき「覚せい剤取締法」容疑をかけられたことにつながりました。
「二トライトを購入する人は、覚せい剤にも手を出しているかも?」と捜査機関のデータ蓄積があったのかもしれません。
「最初からリタリンを買えばよかったのでは?」と言われましたが、当時はリタリンが社会問題となっていたこと、事件にまで発展していたことも知りました。
仮に購入するには「いかにも怪しいサイト」から、陰でコソコソみたいに入手するしかなく、さすがに購入する気にもなりませんでした。
【5】
判決「罰金80万円+二トライト没収」について、不服な理由はいくつかありました。
①
まずは、人体に害があるとは到底考えられないからです。本当に有害な物であれば「体内に残る」からです。
他薬物、アルコール、タバコ、コーヒーですら体内に残り、蓄積され体調に害があるように思えました。処方薬ですら同様です。
二トライトを液体とみなすか、気体とみなすかは意見も分かれますが、中枢神経系に直接作用するデータすらないことです。
また、薬物系の再犯率は7割くらいと言われているなか、二トライトを使用して再犯という人が認められないのは「依存性がほぼ無い」と言えるからと考えます。このようなことから「害悪」ではないものと考えます。
②
亜硝酸エステル系については充分に議論されたわけでもなく「国が一度決めた法律だから違法」というスタンスだと思います。
池袋の危険ドラッグ交通死亡事故を考えれば、指定薬物に値するものを規制することは重要だと感じます。
しかし、亜硝酸エステル類があのような暴走事故につながるのかどうか真剣に議論していただきたい心境です。
委員の先生方もそうですが、当時(H18-19)の厚生労働大臣が舛添要一さんは、都知事時代にも色々不祥事を起こしていた人物でしたので、当時の厚生労働大臣として判断したことは「あまり信用できない」と思います。
③
適当な規制をした法律だから、処罰も適当になっている。ゆきすぎた厳罰化のように感じます。「覚せい剤取締法」と罪の重さ同等であると感じます。
わずか1本で逮捕、わずか1~2本で懲役、30本で無罪、ほか罰金のケースがありますが、求刑の際に検察官から「本来ならば懲役であるが、さまざまな事情から・・・罰金求刑」でした。懲役でも罰金でも、金額が高い安いに関係なく「前科は前科」です。
開き直るとかいう気持ちではありませんが、私は本来どうすべきだったのか?
ということを日々自問自答しています。
「性行為目的」→懲役、「その他の目的」→罰金であれば、著しい差別としか言えないと思います。
【6】
しかし、どのような理由でも輸入・購入は許されないことは理解できました。当時は税関HPに「医療目的に供する=役立たせる」という条文があったことで許されると思い購入をしました。
しかしながら、数年間でしたが心身ともに救われたと思います。開き直るとか、反省していないということではなく純粋にそのように考えておりました。
第三者から見れば「いかがわしい雰囲気のサイト」と言われても否定はいたしません。
あくまで事実を申し上げたいのは、同サイトから2020年5月頃、新型コロナ感染症の中でも、「次亜塩素酸水、アルコール、マスクなどの販売DM」も送られて来ました。
単にいかがわしいだけのサイトでしたら、このような社会情勢の中、人々の健康や社会に役立つようなDMを送ることなどしないと思います。価格も緊急事態前に日本国内の相場くらいでした。
(当然ですが、また捜査機関のお世話になりたくないため購入していません。)
【7】
①
二トライトはRushというように別名がたくさんあります。ポッパーとも呼ばれているそうです。
世界ではポッパーと呼ぶ方が多いみたいです。
仮にポッパーという「娯楽商品」として考えた場合、日本でも以前は道路や新宿駅付近で売られていたと聞きました。
それはそれで間違っていなかったと思います。世界では「娯楽的な要素」が強い商品のようです。
「娯楽商品」として、声が変わるヘリウムガスは現在でも普通に売られています。
同じく「娯楽目的で吸引」するものですが、ヘリウムガス関係のグッズは死亡例が各国で多数報告されていて、自殺にまで使われているにもかかわらず、日本で「規制」されていることすら聞いたことがありません。
イギリスでは2013年に62名が死亡、オーストラリアでは「規制」の動きが出ています。同国では2005-2009年までに79名の死亡者を出しています。
②
そのような経緯でオーストラリアでは、娯楽て使用するヘリウムガスを「規制」していますが、ポッパー(Rush)は「規制」されていません。その危険度が異なるため理解できます。
日本ではその逆で「指定薬物」=違法薬物という扱いです。
今回の裁判も違法薬物であるため、裁判・不起訴処分・通告処分になった方が4桁程度いると知りました。
本当の意味で危険度・迷惑度を考えていない、過度な規制の「指定薬物制度」には疑問が残ります。
個人的には「娯楽」の比較を考えたとき、ヘリウムガスと二トライトで「規制の対象」を比較したとき、どちらが明らかに安全か? 法律の規制はどうあるべきか? を考えさせられました。
【8】
シドニー工科大学の論文からみると、ポッパーズ(ニトライト)はヨーロッパ地域で、煙草、酒に続いて歴史・文化がある」と知りました。
使用目的は様々だと思いますが、煙草や酒のように害があるものを規制しないで、害の低いポッパーズを規制して犯罪扱いするのは現実的ではないと考えます。
体調維持や精神力を高めるための使用であっても、仮にセックス目的だとしても、酒や煙草のようにルールやマナーを心がけ、人の迷惑にならないようにすべきと考えます。
お酒ですら、若い女を口説くため、セックス目的で悪用する人は少なからずいると考えます。
【横浜】ニトライト裁判・【千葉】ラッシュ裁判とも控訴審へ
被告人としては、法律論に終始し、本人の故意の問題などについて、あまり顧みられなかったこと、弁護人としては、薬事法の改正意図などに踏み込んだ判断をしていない点などを不服とし、控訴に向けて準備中です。2021年2月中までに控訴趣意書を提出予定です。
【千葉】ラッシュ裁判も控訴に向けて準備中で、2021年1月末に検察側の意見書が提出され、公判は2月以降の開催の予定です。
※「ニトライト」は「亜硝酸エステル類」と分類される薬物の別称です。「ラッシュ」は「亜硝酸エステル類」で製造されたアメリカにおける商品名です。会としては、日本で一般に呼ばれる「ラッシュ(RUSH)」の語を、千葉裁判も含めて、用いていますが、横浜の裁判については、千葉の裁判と区別を意図することと、被告人の利用目的が「医療等の目途」を主としていることを踏まえて、「ニトライト」の語を用いることにしています。
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