ラッシュの中枢神経系作用を示した韓国論文とその問題点

2016年から2017年にかけて、ラッシュの中枢神経系作用を示した韓国の研究グループ(Hye Jin Chaほか国立食品薬品安全性評価機関毒性評価研究部薬理研究部)による論文が、3本相次いで発表されました。

これらは、【千葉】ラッシュ裁判で、検察側書証として、ラッシュに中枢神経系作用がある証拠として提出されました。

ここでは、その3本の論文の概要を紹介するとともに、その問題点に言及したいと思います。

🔊【千葉】ラッシュ裁判最終弁論2-指定薬物の要件を満たさないこと


論文1「ニューロサイエンス・レターズ」619 2016年4月
「亜硝酸エステルが引き起こす神経有害性:学習/記憶及び運動調整(または運動協調性)の損傷」
亜硝酸エステルは娯楽的薬物として使用されているけれども、中枢神経系統への作用に関しての研究が、神経有毒性も含め、ほとんど行われていない。
本稿研究は、主要3種類の亜硝酸エステル(亜硝酸イソブチル・亜硝酸イソアミル・亜硝酸ブチル)について、学習/記憶機能及び運動調整力に影響するかどうか、げっ歯類で神経誘導性を調査した。検査薬物服用量を変え、2回別々の注射でマウスに腹腔内投与し、記憶獲得及び保持について、モリス・ウオーター迷路試験を行った(亜硝酸イソブチル0.5,50mg/kg・亜硝酸イソアミル0.5,50mg/kg・亜硝酸ブチル0.5,50mg/kg)。ロータロード試験をその後ラットで行った(腹腔内投与。亜硝酸イソブチル0.5,50mg/kg・亜硝酸イソアミル0.5,50mg/kg・亜硝酸ブチル0.5,50mg/kg)。
実験した亜硝酸エステルすべて、記憶獲得・保持テストの両方で査定され、亜硝酸イソブチルは、慢性的投与のラットにおいて、とりわけ運動調整力を損傷していたことが示されている。亜硝酸イソアミルを慢性的注射されたマウスもやはり機能損傷が見られたが、亜硝酸ブチルに有意な作用はなかった。
ウオーター迷路試験結果から、亜硝酸エステルには学習記憶力を損傷する可能性があることがわかる。さらに付け加えれば、亜硝酸イソアミルは、げっ歯類の運動調整力に影響を与えた。全体として、我々の発見から亜硝酸エステルは、とりわけ学習記憶機能方面に神経有毒性を引き起こす可能性が示唆されている。

🔊Neurotoxicity induced by alkyl nitrites: Impairment in learning/memory and motor coordination - ScienceDirect


論文2「ニューロサイエンス・レターズ」629 2016年8月
「亜硝酸エステルの乱用潜在性とドーパミン作用」
中枢神経系統への亜硝酸エステル作用、及び関連する精神的乱用潜在性に関する情報は、あまりない。
亜硝酸エステル主要3薬物(亜硝酸イソブチル・亜硝酸イソアミル・亜硝酸ブチル)の乱用潜在性は、肩よりのない方法により条件づけられた場所選択実験を行い、マウスで数値評価を行った。線条体領域から抜粋されたシナプトソームが放出したドーパミンレベルは、高性能液体クロマトグラフィーを使用して測定された。実験薬物を与えられたマウス(50mg/kg,i.p.)は、薬物ペアの場所選択が有意に増加していた。さらに言うと、亜硝酸イソブチルを与えたマウス反応として、線条体領域シナプトソームがより大きなドーパミンを放出していた。
よって、亜硝酸エステルは精神的依存性やドーパミン作用へと進みうることが、我々の発見から示唆されている。尚、こうした結果から、将来的に向精神薬物質として亜硝酸エステルを裏付ける、科学的エビデンスが得られている。

🔊Abuse potential and dopaminergic effect of alkyl nitrites - ScienceDirect


論文3「ジャーナル・オブ・ケミカル・フォーマスーティカル・リサーチ」2017,9(4)
「亜硝酸イソブチル・亜硝酸イソアミル・亜硝酸ブチルのドーパミン作用」
亜硝酸エステルは、娯楽的利用により、世界的規模で問題となっている。中枢神経系統(CNS)作用に関する科学的情報は不足しているものの、亜硝酸エステルの中枢神経系統作用は、多くの逸話的報告や事例研究から推論されてきた。
CNSへの亜硝酸エステル作用を調査し、とりわけドーパミン系統に焦点を当てるのが、本稿研究目的である。3つの主要な亜硝酸エステル(亜硝酸イソブチル・亜硝酸イソアミル・亜硝酸ブチル)を使用し、検査薬物の向精神刺激用量(psychostimulating dose)を特定するため、その服用量をいくつかに分け、ラットの自発運動能力を測定した。自発運動能力は、検査薬物5mg/kg摂取のラットにおいて、有意に増加していた(対照グループのおよそ1.5から2.5倍)。ハロペリドールの事前投与(0.1mg/kg)の後で、刺激を受けた自発運動能力は、有意に抑制していた(ハロペリドールを与えないグループのおよそ1.5から2.5倍減少)。
3つの亜硝酸エステルについて、自発運動作用はドーパミン受容体によって媒介され、CNSのドーパミンレベルを亜硝酸エステルが増加されると暗示している。

韓国論文の意義と逆説的なエビデンス不足の証明
3論文とも、ラッシュ(論文中では亜硝酸エステル)が、何らかの形で中枢神経系統(CNS)への影響が示唆されることを示した論文であることに一定の評価はあります。
しかし、いずれも、これまでは
「神経有毒性に関する情報は、量的データよりもむしろ、逸話的あるいは事例報告からくるものが主だ」(論文1)、
「有毒性は文献で報告されているけれども、乱用潜在性に関する情報は少なく、短い逸話的報告に散見されるにすぎない」(論文2)、
「CNS作用について、従前報告のほぼ全ては、平滑筋弛緩や血管拡張を含め、周辺神経系統作用に焦点を当てていたものだ。(略)目まい・吐き気・頭痛が報告されているが、これは間接的CNS作用を示唆しているにすぎない」(論文2)
「亜硝酸エステルがCNSに作用するメカニズムに関しては、十分な科学的情報が存在しない」(論文3)、
と述べられています。
これは言うまでもなく、日本でラッシュが「指定薬物」と指定されたときも、その根拠となった「アメリカン・ジャーナル・オン・アディクションズ」ですら、確固たる科学的エビデンスが存在していなかったことを物語っているといえます。

韓国論文の仮説性の高さ
論文1の結論は、「亜硝酸イソブチル・イソアミル・ブチルは、げっ歯類で学習記憶及び運動調整欠陥を引き起こした。これは、海馬のグルタミン酸作動性経路への影響による可能性がある。」として、「さらなる研究により明らかにする必要がある」とまとめられています。
論文2の結論は、「シナプトソームからのドーパミンレベルの増加という発見は、CNSへの亜硝酸エステル作用に関し、斬新なエビテンスを提供している」としながらも、「濃度に関するデータ不足」「単一投与のみで反復投与が行われていない」などの課題があることも示されています。
論文3は、「ドーパミン受容体活性変化を通り刺激されたドーパミン経路で、亜硝酸エステルがCNSに影響を与えている可能性が本研究から示唆される」としながらも、「ドーパミン活性を亜硝酸エステルがどのようにして変化させているか、正確な手段で適切に例証づけるところまで、我々の結果は至っていない」としています。
このように、3論文は、いずれも、ラッシュ(亜硝酸エステル)が何らかの形で中枢神経系統に作用を与えていることを示唆しているものの、論文としては仮説性が高いものと判断されるものです。

論文として問題点
弁護側証人の梅野充医師は、次のような問題点を指摘しています。
1 そもそもラットやマウスを使用した実験結果が人間に当てはまるか
2 ラットやマウスに投与した分量は、人間だと使用するはずのない大量な量であり、それにより記憶障害や運動障害を引き起こしていることも考えられる
3 ラッシュは一般に吸引して使用するものであるのに対し、実験は腹腔内投与されており、これも比較の対象にならない
4 以上から考えると、「中枢神経に一定の作用がある可能性」は見られるが、精神科医が臨床の場で考えるような「精神毒性」を有するとまでは至らない。
ほかにも、これらの実験は、すべて同一の研究グループが行ったものであり、また、規制しようとする国家機関に近い立場の研究であること、このような実験は、他の研究グループが追加実験をして、さらに追認されてエビデンスとして確立されていくものであるのが一般的だが、そうしたものも見られない、といった問題点も指摘できるかと思います。

🔊精神科医から見たラッシュ規制(梅野充) 


いずれにせよ、被告人の人生を大きく左右する刑罰化なのですから、明確なエビデンスと法解釈に基づいた、司法判断がなされるべきだと考えます。

【千葉】ラッシュ裁判・【横浜】ニトライト裁判とも控訴審へ

【千葉】ラッシュ裁判は控訴に向けて準備中で、2021年1月末に検察側の意見書が提出され、公判は2月以降の開催の予定です。

【横浜】ニトライト裁判も罰金刑の有罪判決を受けたため、控訴に向けて準備中です。予定はわかり次第、お知らせします。


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    名義 ラッシュコントロール