日本国内で、ラッシュ(RUSH)が一般に普及され始めたのは、1990年代ころからとされていますが、当時は、いわゆる催淫剤的な用途で、ごく普通にショップなどで販売されていました。
行政が規制の対象として認知していたのは、1980年代に遡ることができますが、詳細は以下の論文に譲ります。
🔊ラッシュ規制をめぐる論文紹介
2000年代に入ると、ラッシュは催淫剤として広く普及し、「脱法ドラッグ」の名称のもと、規制する薬物として認識されていきました。
2005(平成17)年2月22日、厚生労働省は、「脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会」を、医薬・生活衛生局(生活衛生・食品安全)が実施する検討会として設置します。この検討会での議論が、のちの「指定薬物制度」の考え方を形成していく根拠となります。
🔊脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_128699.html
2月22日開催の第1回の会議では、「脱法ドラッグの範囲」について、以下のような意見が出されました。
🔊第1回脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会 議事要旨
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/02/s0222-15.html
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脱法ドラッグの範囲
事務局から配布資料に基づき、本検討会で検討対象とする脱法ドラッグの範囲(案)について説明があった後、討議を行った。
【主な意見】
○
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化学物質だけでなく、植物等の形で流通しているものも含めるべきではないか。
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○
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脱法ドラッグは麻薬・向精神薬と薬事法上の医薬品との狭間にあるものとして位置づけられるのではないか。
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○
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流通規制においては、販売時の目的の存在が最も重要ではないか。
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○
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「有害性」には精神毒性、依存性等が含まれるが、脱法ドラッグの範囲は、精神毒性があり、かつ、依存性があるものに限定すべきではなく、精神毒性の疑いのあるものも含めるべきではないか。
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○
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「疑い」には現時点での蓋然性だけでなく、将来のおそれも含めるべきではないか。
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○
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本検討会において検討対象となる脱法ドラッグの範囲は次のとおりとする。
(1)
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麻薬、向精神薬には指定されておらず、
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(2)
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麻薬、向精神薬と類似の有害性を有することが疑われる物であって、
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(3)
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専ら人に乱用させることを目的として製造、販売等がされるもの
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ラッシュ裁判の関わりから見たポイントとしては、かなり広範な物質を対象としていながらも、
「流通規制には販売時の目的の存在が重要」
「精神毒性」という概念が用いられている点
「麻薬、向精神薬と類似の有害性を有することが疑われる物」
といった指標が挙げられている点をおさえておくことが重要かと考えます。
ラッシュ裁判の関わりとしてのポイントは、広範な物質を含めることと合わせて、
「麻薬や覚せい剤等の乱用の契機となること」(いわゆるゲートウェイドラッグの考え方が含まれた点)
「犯罪等へ悪用されるおそれ」
などが加えられている点でしょう。
ラッシュは果たして、こうした要件に当てはまるものなのか、実態に基づいて検討されていったのか、注視する必要があるといえます。
検討会は、2005(平成17)年11月25日に、以下の提言をまとめます。この提言が「指定薬物制度」につながっていくのです。
🔊「違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)対策のあり方について(提言)」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/11/s1125-21.html
はじめに
「脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会」は、平成17年2月22日に設置され、これまで6回にわたり、いわゆる脱法ドラッグの現状やその特徴を踏まえながら、その規制方策や乱用防止のための啓発活動のあり方等について議論を重ねてきた。今般、これまでの議論、検討結果をとりまとめたので、ここに報告する。
なお、従前の「脱法ドラッグ」という呼称は、これらが薬事法違反である疑いが強いにもかかわらず、法の規制が及ばないかのような誤ったメッセージを与えかねないため、本検討会では、これを「違法ドラッグ」と変更すべきとの結論に達した。ただし、これまで脱法ドラッグと呼ばれていたものと異なるとの誤解・混乱を生じないよう、当面は「違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)」と括弧書きを付すこととした。そこで本報告書でも、これまでの脱法ドラッグという呼称を改め、違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)(以下単に「違法ドラッグ」と表記。)の呼称を用いている。
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1.違法ドラッグの現状
人為的合成か天然物由来かを問わず化学物質には、麻薬等と同様に多幸感、快感などの効果を期待して摂取されるものがある。それらの中には、やがて乱用に伴う保健衛生上、社会上の危害が顕著となり、また、依存性、精神毒性等の有害性が解明され、麻薬に指定されるなど法的な規制がなされるものもある。(例えば、昭和45年(1970年)に麻薬に指定されたLSD、同じく平成元年(1989年)のMDMAなど。)
違法ドラッグは、平成10年頃から一部の薬物マニアの間で流行し始めたと推定され、現在、以下のような状況にある。
(1)
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違法ドラッグは、薬事法違反(無承認無許可医薬品)である疑いが強いにもかかわらず、麻薬や向精神薬に指定された成分は含有していないため、アダルトグッズショップ、インターネット等の通信販売などで「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」などと称して半ば公然と販売されており、最近では青少年を中心にその乱用が拡大する傾向にある。
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(2)
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そうした乱用の拡大を背景に、違法ドラッグの過量摂取や数種類の違法ドラッグの併用によるものと疑われる中毒等の健康被害や事故(死亡例を含む。)が発生している。さらに、違法ドラッグの使用をきっかけに麻薬や覚せい剤の使用に発展したと思われる事例も知られており、違法ドラッグを通じて薬物乱用に対する罪悪感や抵抗感が薄れる、あるいは、より強い刺激を求める欲求が生じることで、麻薬や覚せい剤等へのゲートウェイ(入り口)となる危険性が高くなっている。
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2.違法ドラッグとは
(1)
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本検討会で検討した違法ドラッグ
本検討会においては1.の現状を踏まえ、違法ドラッグの範囲を、実際に依存性等を有するか否かによらず、できる限り幅広くとらえて乱用対策のあり方につき検討を行うため、検討対象を「麻薬又は向精神薬には指定されておらず、麻薬又は向精神薬と類似の有害性を有することが疑われる物質(人為的に合成されたもの、天然物及びそれに由来するものを含む。)であって、専ら人に乱用させることを目的として製造、販売等がされるもの」とした。
(なお「乱用」とは、本来あるべき用途や目的から外れる使用等を指し、麻薬及び向精神薬取締法(以下「麻向法」という。)第1条にいう「濫用」に相当するものであるが、医学的な定義は必ずしも定まっていないところである。そのため本検討会では、法に抵触するか否かによらず、我が国の社会規範に照らして逸脱と見なされる行為としてより広い概念で捉えている。)
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(2)
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違法ドラッグの特徴
こうした違法ドラッグ対策のあり方を検討するに当たって、まずその特徴的な事項として留意すべき点として、以下が挙げられる。
(限られた情報・科学的知見)
麻薬の化学構造を部分的に変化させた新たな物質や、これまで我が国ではほとんど知られていなかった幻覚性植物等に由来するものが次々と出現しており、また、含有成分がある程度判明した違法ドラッグであっても、容易に販売名や包装形態等を変えて販売がなされるなど、実際にどのような物質が含まれているか不明なまま流通している製品が多い。
製品に含まれる成分として物質が特定された場合であっても、ほとんどの場合、依存性や精神毒性等の有害性に関して現時点で得られている科学的知見は非常に限られている。
(目的を偽装した販売等)
違法ドラッグは専ら乱用に供する目的で流通しているが、規制を逃れるため、芳香剤・防臭剤、ビデオクリーナー、研究用試薬、観賞用等と称した上、幻覚等の作用を「誤用防止の注意書き」等で偽装し、あるいは用途を一切標榜しないまま、輸入、販売等がなされているものがほとんどである。
このような場合でも、違法ドラッグを購入、乱用する者は、別途インターネット等を通じて、その摂取方法や効果等に関する情報を得ている。
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3.
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現行制度における規制と問題点
これまで違法ドラッグへの規制対応は、麻向法と薬事法の2つの法律により行われており、その具体的な規制内容と問題点は以下のとおりである。
(1)
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麻向法による対応
国では、麻薬又は向精神薬と類似の有害性が疑われる化学物質や基原植物につき、依存性、精神毒性等に関する科学的データの収集、調査を積極的に実施し、かかる有害性が裏付けられ次第、速やかに麻薬等に指定している。いったん麻薬等に指定されれば、それを含有する製品に対しては厳しい取締りがなされることになる。
平成14年6月、サイロシビン又はサイロシンを含有するきのこ類(いわゆる「マジック・マッシュルーム」)が麻薬原料植物に指定された。また、本年4月には、違法ドラッグの成分からAMT及び5-MeO-DIPTの2成分が麻薬に指定された。更に現在、MBDB及び2C-T-7の2成分について麻薬に指定すべく準備が進んでいる。
(問題点)
しかしながら麻向法では、個々の物質について有害性を立証した上で、当該物質を麻薬等に指定するため、規制範囲は指定対象となった物質を含有する製品に限定される。そのため、化学構造の類似した新たな物質等が次々と出現し、それらを含有する製品が目まぐるしく交代して流通している違法ドラッグを迅速かつ広範に規制することは難しい。また、有害性が疑われる物質が特定されてから、最終的にそれが麻薬等に指定されるまでには、科学的データの収集等のため少なくとも1~2年の時間を要するという問題がある。
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(2)
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薬事法による対応
違法ドラッグは、専ら人に乱用させることを目的として販売等がなされている。このため国及び各都道府県では、薬事法で定義する医薬品「人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物」(第2条第1項第3号)に該当し、薬事法に基づく承認や許可を受けずに業として輸入、販売等がなされている医薬品、すなわち無承認無許可医薬品の疑いがあると判断し、監視指導を行っているところである。
(問題点)
2.(2)で述べたように、違法ドラッグは、人体への摂取を目的としていないかのように偽装される等、薬事法の規制対象となることが立証困難な場合があり、取締りの実効性に支障が生じている。
また、乱用者自らが違法ドラッグを外国から直接購入し、郵送等で取り寄せる行為(個人輸入)については、現行の薬事法で規制が設けられていない。近年、インターネットの普及に伴い、一般消費者でも安易に個人輸入を行える状況にあり、特に、青少年が興味本位で違法ドラッグを輸入するおそれが大きくなっている。さらに、国内での販売を目的としながら個人輸入と称して違法ドラッグを大量に輸入している事例や、個人輸入の代行を謳いつつ、実際は国内で販売を行う事例があるなど、個人輸入という形態が悪用されている実態もある。
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4.
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違法ドラッグ規制の視点
上記3.に示した現行制度における規制とそれらの抱えている問題点を踏まえ、今後、違法ドラッグ対策の強化を進める上で、次の事項を考慮して具体的な方策を検討する必要があるものと考えられる。
○
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麻薬又は向精神薬と同様の有害性を有することが確認されたものについては、速やかに麻薬等として指定し、厳しい規制を行っていくべきである。
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○
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化学構造の一部を変化させる等により、新たな物質が次々と出現することから、含有物質の有害性に関する科学的知見が必ずしも十分集積されていない段階であっても規制がなされるべきである。
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○
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乱用に供する目的で流通している疑いのあるものに対しては、用途の標榜等の如何にかかわらず、危害発生の防止を図る措置がとられるべきである。
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○
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取締りが効果的に実施されるような仕組みがとられるべきである。
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○
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乱用者自らが外国から直接購入すること(個人輸入)を含め、違法ドラッグの入手機会を抑えることが考慮されるべきである。
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5.
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違法ドラッグ規制の具体的方策の検討
こうした視点に立ち、本検討会において違法ドラッグ規制の具体的方策につき、各分野の専門的観点から議論を重ねたところ、おおむね以下のような意見に集約された。
(1)
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麻向法による規制
まず、違法ドラッグ対策を講じていく上での基本的な前提として、麻薬等と類似の有害性が疑われる化学物質や基原植物について、引き続き依存性、精神毒性等に関する科学的データの収集、調査に積極的に取り組み、かかる有害性が確認され次第、速やかに麻薬等に指定していくこととする。
その一方で、麻薬等の指定に至るまでの間は有効な規制ができないこと、また、麻薬等と類似の有害性を見出せない物質については、現行の麻向法の枠組みでは規制できないといった諸問題を解決する必要がある。
これらを解決する方策として麻向法の下で新たに「一括指定制度」あるいは「暫定指定制度」を導入することが可能であるかどうかについて検討を行ったが、次に示すように、我が国の法体系上困難であると考えられる。
(1)
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一定の化学構造を有する物質群を一括して規制対象とする「一括指定制度」については、指定された化学構造を有する物質でも有害性の程度には大きな違いがあり、中には有害性が全く認められないものも含まれる可能性があるため、それらを一律に厳しく取り締まることは、罪刑法定主義及びそれより派生する諸々の刑法理論に照らして問題がある。
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(2)
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麻薬等に相当する有害性が疑われる物質について、それが立証されるまでの間、暫定的に規制対象とする「暫定指定制度」についても、一定期間内に有害性が立証されずに指定を解除することになった場合、指定期間中に摘発されて有罪となった者の取扱い等について刑事立法上の問題(処罰の必要性及び根拠の問題、国家賠償の問題等)が生じるおそれがある。
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したがって、上記の問題を解決するためには、麻向法とは別の法体系による、迅速かつ広範な規制を講じる方策を検討する必要がある。
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(2)
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薬事法による規制
薬事法は、いわゆる「目的規制」の体系を採用し、有害性の程度や表向きの標榜等の如何によらず、「人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物」を全般に規制対象としていることから、麻向法に比べて格段に迅速かつ広範な規制が可能である。
しかしながら、現行の薬事法では、上記3.(2)で述べたように、医薬品への該当性を立証しにくい場合が多いほか、乱用に供する目的が疑われる段階での規制や、個人的に使用するためとして輸入される違法ドラッグへの規制が困難である。
こうした現行の薬事法における規制の問題点について改善策を講じることによって、違法ドラッグに対する取締りに、より一層の機動性、実効性を持たせることが可能となるものと考えられる。具体的には、以下の事項に関する法的整備を検討すべきである。
(1)
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規制根拠の明確化
違法ドラッグの有効成分として使用(乱用)実態が認められる物質又は物質群(植物及びその加工品等を含む。)をあらかじめ明示し、それらを正当な理由なく含有する製品(=違法ドラッグ)は、表向き人体摂取を目的としない旨を標榜していたとしても薬事法の規制対象となることを明確にする。
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(2)
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製品の違法性が疑われる段階での対応
違法ドラッグの有効成分とみなされる物質を含有する可能性がある不審な製品が輸入や販売をされている等、乱用に供する目的で流通していることが疑われる場合には、保健衛生上の危害を未然に防止するため必要な措置を採ることができるようにする。
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(3)
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流通(輸入)の規制強化
違法ドラッグについては、販売等に対する取締りに加え、個人が外国から直接購入すること(個人輸入)に関しても一定の規制を行い、その入手機会を可能な限り制限する。
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(3)
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違法ドラッグの所持及び使用の規制に関する考察
3.(1)で述べたように、違法ドラッグ成分の中にはやがて麻薬に指定されるものが含まれており、麻薬に指定された場合には、それらを含有する製品を所持したり、使用することも取締りの対象となる。そこで、違法ドラッグについても所持や使用を規制することができれば、青少年等の乱用の抑止に一層効果的であり、その方向で検討すべきではないかとの議論があった。
また、違法ドラッグを人に摂取させる目的で販売や授与を行うことや、そのために所持することは、薬事法により無承認無許可医薬品として規制されている。しかし、現時点で麻薬相当の有害性が立証されたといえない違法ドラッグについて、販売等を予定しない個人的な使用のための所持等までも規制することは、有害性の程度に応じた規制の均衡という観点から、基本的に困難ではないかとの指摘がある。また、5.(2)において可能な法的手当を検討すべきとしたような、流通段階における規制・取締りの強化を図ることによって、興味本位や無思慮、あるいは無規範な考えによる違法ドラッグの入手や使用は相当程度抑制される可能性が高いとの意見もあった。
違法ドラッグの乱用は決して容認されるものではないが、上記のように、単純所持及び使用の規制について、現時点で直ちに法的な措置として実現の途を探ることは難しいのではないかと考えられる。よって、本提言を踏まえた違法ドラッグ対策の帰趨や成果、また、それら対策が講じられた結果としての違法ドラッグの乱用実態等を十分に把握・検証した上で、麻向法における麻薬や向精神薬の規制とのバランス等を含め、今後検討すべき課題でないかと考えられる。
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6.
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違法ドラッグ乱用防止のための啓発活動
違法ドラッグの乱用防止を包括的に推進するためには、供給側に対する規制と併せて、違法ドラッグに手を出しやすい層に対して啓発を図っていく必要があり、保健教育、乱用予防等の観点から議論がなされた。
(1)
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啓発の重要性
WHOが発行した2001年世界保健報告(World Health Report
2001)によれば、精神作用物質の使用による精神及び行動の障害(麻薬、アルコール、タバコ等)は、HIV/AIDS、結核等と並んで、国民の健康寿命を損なう原因疾患の上位を占めている。薬物乱用は精神を蝕み、長期にわたる障害や後遺症を引き起こす。薬物乱用防止の啓発は、薬物が人生を破壊することを防ぐための重要な方策である。
一方、我が国では、青少年において、違法ドラッグを含めた薬物の危険性に関する認識、理解が十分でないことが指摘されており、青少年と日頃接する機会のある委員からも、これを裏付ける発言があった。
青少年に違法ドラッグの乱用が誘発される背景には、それが法律に抵触しないものであり、また、無害であるかのように誤解し、抵抗感を薄れさせていることが多いと考えられる。青少年の薬物乱用は、後の人生に大きく影響を及ぼすため、興味本位で手を出してしまうのを防止する啓発活動が特に重要である。
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(2)
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啓発活動のあり方
小学校から高校にかけての教育現場において、また、地域社会においても、違法ドラッグを含めた薬物の乱用に関する正しい知識や規範意識を根付かせることを第一とし、教育的観点からの啓発を継続的に行う必要があり、そのための体制を整えることが重要である。
青少年に対する乱用防止の啓発活動においては、“その薬物が違法であって、乱用は犯罪につながり、社会のルールに反するものだからいけない”というアプローチに加え、“薬物乱用は心身に害を及ぼす(特に違法ドラッグは、将来如何なる障害を生じるか全く未知であるという危険性がある。)ので、自分自身の心身を大切にして、いたずらに薬物に手を出すべきでない”というアプローチが有効であり、こうした両面からの啓発が重要である。
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(3)
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乱用実態の把握の必要性
そもそも違法な薬物の乱用については、乱用者がその事実を他人に知られたくないと考えるため、乱用実態の把握は一般に困難である。
更に違法ドラッグの場合、内容成分の表示もなく販売され、その実体が明らかでないことが多く、また、異なる販売名等で次々と製品が登場するため、如何なる物質が乱用されているのか把握することすら困難である。
しかしながら、薬物の乱用実態(乱用者の性別、年齢、社会階層等、乱用される薬物の種類、量等)のデータは、その薬物の乱用防止策を策定・実施する際の基礎となるものである。特に乱用防止啓発活動においては、ターゲット集団を特定することが極めて重要である。このため、違法ドラッグの乱用実態についても、可能な範囲で早急に調査を行うべきである。
また、何らかの薬物によると思われる急性中毒で救急治療を受けた症例の報告を集積することによっても、違法ドラッグの乱用実態の一端を知る有益な情報が得られると考えられ、このような症例をモニターするため、病院ネットワークの構築等を検討すべきである。
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7.
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その他の対策
5.及び6.に示した対策の実効性を高めるため、積極的に取り組むべきその他の対策としては以下が挙げられる。
(1)
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関係機関間の連携強化
麻薬や覚せい剤等の乱用防止については、内閣総理大臣を本部長とする薬物乱用対策推進本部の下、薬物乱用防止新5カ年戦略が策定され、政府一丸となって取り組みが推進されている。
違法ドラッグが麻薬や覚せい剤等の乱用のゲートウェイ(入り口)となるおそれがあることにかんがみれば、違法ドラッグに関しても乱用防止に向けて連携が欠かせない。取締りや啓発等を行う国の機関間はもとより、国と地方自治体の間においても、関係者が日頃から円滑な情報共有を図る等、緊密に協力して効果的な乱用防止対策を実施していく必要がある。
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(2)
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インターネット監視の強化
違法ドラッグは、インターネット上で販売広告、宣伝されていることが多い。インターネットはその手軽さや匿名性等の特性から、青少年が違法ドラッグを安易に入手する環境を形成しやすい。また、違法ドラッグの摂取方法や効果等、乱用を助長する情報の流布に、販売業者等が関与しているケースもあると考えられる。
国及び都道府県等は、インターネット監視の一層の強化を図り、問題のある広告等を発見した場合には、警告メールの送信や改善指導・命令等の措置を迅速に採ることによって、違法ドラッグの入手機会を減少させるよう努めるべきである。
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おわりに
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今般、違法ドラッグの乱用が青少年を中心に拡大している現状にかんがみ、早急に対応を検討し、措置すべきとの認識から、違法ドラッグの規制についての具体的方策、啓発活動のあり方等をここに提言としてとりまとめた。
今後、本提言を踏まえ、政府において、法的措置を含めた違法ドラッグ対策を検討することとなるが、本検討会の成果が十分に活かされることを期待するとともに、引き続き違法ドラッグを含む薬物乱用対策について、国と都道府県等の地方自治体がこれまで以上に連携して取り組んでいくことを切に要望するものである。
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「提言」では、「脱法ドラッグ」という呼称を「違法ドラッグ」と変更することを提示します。
まず検討対象として、「麻薬又は向精神薬には指定されておらず、麻薬又は向精神薬と類似の有害性を有することが疑われる物質」と定義している点を確認したいです。私たちは、「指定薬物」を定義する薬事法(現医薬品医療機器等法)の法文は、あまりにも広範な要件となっているため、この提言を援用して解釈すべきであると考えています。
また、「麻薬や覚せい剤等へのゲートウェイ(入り口)となる危険性が高くなっている」「物質が特定された場合であっても、ほとんどの場合、依存性や精神毒性等の有害性に関して現時点で得られている科学的知見は非常に限られている」と言及されていますが、ラッシュについては、どの程度の実態解明がなされていたのか留意したいところです。
次に、「麻薬及び向精神薬取締法」と「薬事法」の規制内容と問題点が整理されます。
麻向法については、「麻薬又は向精神薬と類似の有害性が疑われる化学物質や基原植物につき、依存性、精神毒性等に関する科学的データの収集、調査を積極的に実施し、かかる有害性が裏付けられ次第、速やかに麻薬等に指定している」とあります。ラッシュは、「亜硝酸エステル」という物質が特定されています。しかし、麻薬指定に至っていないことは、ラッシュは、「麻薬又は向精神薬と類似の有害性」に相当する「依存性、精神毒性」などが検証されていないことを証左しているのではないでしょうか。
薬事法については、「人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物」が規制対象となっているとし、そのため、薬事法によって規制することが提言されますが、ラッシュは、この麻向法と薬事法の規制の「はざま」に紛れ込まされてしまったといえるかもしれません。
ほかに、麻向法における「一括指定制度」あるいは「暫定指定制度」の導入については、「指定された化学構造を有する物質でも有害性の程度には大きな違いがあり、中には有害性が全く認められないものも含まれる可能性があるため、それらを一律に厳しく取り締まることは、罪刑法定主義及びそれより派生する諸々の刑法理論に照らして問題がある」「一定期間内に有害性が立証されずに指定を解除することになった場合、指定期間中に摘発されて有罪となった者の取扱い等について刑事立法上の問題」がある、と言及されていますが、これは薬事法における「指定薬物制度」でも、同様の配慮が必要なのではないでしょうか。ラッシュには、「麻薬又は向精神薬と類似の有害性」は確定されているのでしょうか。
さらに「使用及び所持に関する規制」も考察されており、「麻薬相当の有害性が立証されたといえない違法ドラッグについて、販売等を予定しない個人的な使用のための所持等までも規制することは、有害性の程度に応じた規制の均衡という観点から、基本的に困難ではないか」「乱用実態等を十分に把握・検証した上で、麻向法における麻薬や向精神薬の規制とのバランス等を含め、今後検討すべき課題でないか」とされていますが、2013(平成25)年に「個人使用所持譲り受け」が罰則化された際に、こうした検証はなされたのでしょうか。
なお、啓発活動においては、WHOの2001年の報告が参照されていますが、国際的には2001年にはポルトガルですでに薬物の非犯罪化が行われ、2014年には、WHOによって「薬物の非犯罪化」が世界的に推奨されるようになっているにも関わらず、日本の薬物規制は、こうした国際標準から外れた政策を取っています。
提言の出された2005年、「指定薬物」が施行された2007年から、薬物政策のあり方は変化しています。
ラッシュ裁判は、こうした側面についても、問題提起する契機となると考えます。
皆さんはそれでも、「法律で決まっているから法律は守るべきで、違法行為をしたら罰則を受忍すべきだ」と考えますか。
🔊「世界の主流は「薬物の非犯罪化」」国立精神・神経医療研究センター薬物依存症松本俊彦(5)/川端裕人
『ナショナルジオグラフィック日本版』2017年4月14日
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/17/040500003/041100005/
🔊指定薬物制度の議論は充分だったか?