精神科医から見たラッシュ規制(梅野充)

現在、ラッシュ(亜硝酸イソブチル)を海外から個人輸入しようとして、医薬品医療機器等法並びに関税法違反として起訴され、その罪状について争われている「ラッシュ裁判」が行われています。

この裁判の弁護人側証人として、2019年11月15日公判に証人尋問に立ったのが、薬物依存症への臨床経験を豊富に持ち、東京都の薬事行政にも関わっている精神科医師である梅野充氏でした。

🔊11月15日公判精神科医師証人尋問

 

梅野氏は、2020年1月18日に開催された

🔊ラッシュ裁判報告会&交流会

において、証人尋問の証言に即した報告をしてくださいました。その内容をここに紹介します。

 

精神科医からみたラッシュ規制

梅野充(ウメノ・ミツル)〈アパリクリニック 精神科医師

 

1 「乱用」物質としての亜硝酸エステル 

亜硝酸エステル類(亜硝酸アミル、亜硝酸ブチル、亜硝酸イソブチル)には血管拡張作用があり、元来は狭心症やシアン中毒の治療薬として用いられてきた。

平滑筋の拡張によって脳血管を含む血管の拡張(大量の血液流入”rush”)が起こる。この作用は7から10秒で始まり、30秒でおさまる。

血圧は30秒間低下を示し、90秒後には吸入前のレベルに戻るとされる。

ガラス容器を開封するとポンとなるので”poppers”と呼ばれてきた。

頭痛や血液への影響などの悪影響があり、「乱用」されると言われてきた。

ただ筆者の経験では,亜硝酸エステルによる症状を訴えて臨床場面に現れる事例はまったくなかった。

 

2 そもそも「乱用」とは?

「乱用」という言葉には「規範から外れて用いる」(“abuse=ab-use”)という意味がある。これには次のようなさまざまな投薬や物質使用の様態が含まれる。

①医薬品の目的外使用(薬剤認可の時点で適応症として認められた疾患以外への投薬)

②医薬品などの規定の分量を超えての大量使用

③人体に用いると想定されていない物質の摂取(「クリーニング剤」として市販されているものの吸入)

④法律で禁止されている使用(未成年の飲酒)

医療的には①、②には治療目的として容認されている場合もあり、③、④の場合にも事実上問題にならない場合がありうる。

本来、物質「乱用」というには、医学的根拠にもとづいて、害が実証されている必要があるだろう。

そのうえで、害の大きさに応じた規制が行われるべきであろう。

 

3 亜硝酸エステル類に対する規制とは? 

ところが亜硝酸エステル類への国の規制は、わが国における「危険ドラッグ渦」ともいうべき事態に対して、とり急ぎ行われたものと見ることもできる。

その後の規制強化も必ずしも厳密な医学的検証や証拠にもとづいたものと言いがたく、いわば規制やそれにもとづく社会的な影響が強くなりすぎていると見ることができる。

規制を社会として反省する時期が来ているのかも知れない。


ときあたかも、歌手の槇原敬之さんも、ラッシュの所持が報道されています。

ラッシュの規制を問い直す裁判は、槇原敬之さんの動向に関わる問題ともいえます。

次期公判は、3月9日月曜午前中 千葉地方裁判所で行われます。

🔊3月9日公判論告弁論

一人でも多くの方が関心を持ってくださるとありがたいです。

🔊紹介記事「RUSH裁判のこれまでとこれから」掲載


梅野充医師(左)と司会の塚本堅一さん
梅野充医師(左)と司会の塚本堅一さん