イギリスでの規制へ専門家や議員が反論

2016年、イギリスで危険ドラッグなど精神作用物質の販売などを禁止する「精神作用物質法」(Psychoactive Substances Act 2016)が制定されました。その規制対象の中に〈ラッシュ〉が含まれることに対し、〈ラッシュ〉に有害作用はあるが同法で規制するほどの必要性がないとの議論が噴出しました。

とくに政府の諮問機関である「薬物誤用に対する諮問委員会」(ACMD)が、

 

🔊「亜硝酸エステル類のレビュー」

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/508179/Poppersadvice.pdf

 

という答申を内務大臣に提出し、〈ラッシュ〉は「中枢神経系に直接作用せず、精神作用物質の定義には該当しない」と指摘したことが、規制の見送りに大きな影響を与えたようです。この答申のポイントについては、

 

🔊小森榮「「ラッシュ」は規制せず?|英、精神作用物質全面禁止法

 https://33765910.at.webry.info/201604/article_7.html

以下のように紹介されています。

 

2、「ラッシュ」には、精神作用物質法がいう意味での精神活性があるか?

2-1 「ラッシュ」は血管を拡張させて、血流を増加させる。一般に、これは亜硝酸塩から一酸化窒素が放出されることに関連するもので、これによって血管の平滑筋を弛緩し、血管の拡張をもたらすと考えられている。

2-2 平滑筋は、膀胱、消化管、膣、肛門括約筋など弾力性を必要とする身体の各所にもみられ、亜硝酸エステルはこうした平滑筋も弛緩させる。

2-3 吸引した亜硝酸エステル類は、すぐに血流に吸収され、瞬時に作用が発現する。血管拡張作用は血流の増加を促し、それによってしばしば血圧が一時的に低下し、鼓動が早くなりめまいが起きる。脳血管の拡張が温感や顔面紅潮を伴うことはよくあり、これがユーザーの感じる高揚感をもたらす。

2-4 脳は、脳やその周辺での血管肥大によって引き起こされた血流量増加による間接的な作用として、一時的な「ラッシュ感」や高揚感を感知する。こうした作用は、脳の血液関門の外側で起きるため、「周辺的」なものと考えられる。
「ラッシュ」吸入の主観的体験

作用は吸入してすぐに現れるが、わずか数分しか持続しない。心拍が早くなり、血流が頭部に急行し、人はめまいのような「ラッシュ感」を感じる。一般的に、脈打つような頭痛、立ち眩み、吐き気、時間が延びたようなスローダウン感覚、顔面や首周りの紅潮、軽いめまいなどが報告されている。

 

日本でも、ラッシュが「指定薬物」として規制される要件は、医薬品医療機器等法で「中枢神経系への作用」があると定義されていることですから、看過できない見解だと考えます。

 

さらに驚くのは、答申に先立つ議会において、保守党議員が、自身もラッシュを使用した経験を告白し、規制の禁止は馬鹿げたことだと発言したことです。

 
🔊Tory MP Crispin Blunt 'outs himself' as popper user(BBCニュース2016年1月20日)

 https://www.bbc.com/news/uk-politics-35363865

 

 日本で、ラッシュの規制の是非については、専門の薬物部会でも、議会でも、まったく議論されず進んでしまいました。

イギリスのように、しっかり議論される過程がいかに重要か、改めて考えさせられます。

 

🔊指定薬物制度の議論は充分だったか?

 

 

 

 

ACMD答申
ACMD答申