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関税法改正で多くの摘発が

指定薬物制度導入当初から、指定薬物の販売や、(販売を前提とした)輸入は規制されていました。

しかし、個人で輸入しようとして税関で発見された場合、「輸入してはならない貨物」に指定されていなかったため、税関では没収などができず、持ち主に任意処分を求める以上のことはできませんでした。

その点を解消しようと、2015(平成27)年4月から、関税法改正により、指定薬物の輸入は禁止され、税関でも摘発することができるようになりました。

違反すると、10年以下の懲役または3000万円以下の罰金が課せられます。

🔊平成27年4月1日より、関税法上、指定薬物の輸入が新たに禁止されます

 http://www.customs.go.jp/mizugiwa/smuggler/designateddrugs.htm

 

そして、関税法の改正された2015年の指定薬物の摘発数は、驚くことにその9割がラッシュ(亜硝酸イソブチル)だという実態が明らかになりました。

🔊平成27年における不正薬物・銃砲の密輸入事犯の動向 I.不正薬物等の密輸入動向

 https://www.customs.go.jp/mizugiwa/mitsuyu/report2015/27haku01.pdf (財務省関税局税関)

(4)指定薬物

指定薬物は、「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策」(平成26年7月18日策定)の一環として、平成27年4月、関税法上の「輸入してはならない貨物」に追加された。

平成27年の税関における指定薬物の密輸入事犯の摘発件数は1,462件と不正薬物全体の約8割を占め、押収量は約37kgを記録した。

月別の摘発件数をみると、8月までは200件前後と高水準で推移していたが、9月以降は減少傾向となり、最も多かった月の半数以下となった〔図3参照〕。

薬種別にみると、亜硝酸イソブチルが1,285件と全体の約9割を占めた〔図4参照〕。

亜硝酸イソブチルの多くは、違法サイト等で“RUSH”等の商品名で販売されている小瓶(約9ml)入りの液体であり、蓋を開けて気化したものを吸引して体内に摂取する方法で乱用される。

1件当たりの押収量は小瓶3~4本と少量の事犯が多いが、中には1件で72本を押収した事例もあった。

密輸形態別にみると、国際郵便物を利用した密輸入が1,442件と全体の99%を占めた〔図5参照〕。

密輸仕出地別にみると、中国が1,130件と全体の約8割を占めた〔図6参照〕。  


2016(平成28)年も、指定薬物の7割がラッシュ(亜硝酸エステル類)でした。

🔊平成28年における不正薬物・銃砲の密輸入事犯の動向 I.不正薬物等の密輸入動向

 https://www.customs.go.jp/mizugiwa/mitsuyu/report2016/28haku01.pdf (同上)

(4)指定薬物

指定薬物※3の摘発件数は477件(前年比67%減)と大幅に減少したが、不正薬物全体の摘発件数の半数以上を占め、引き続き高水準となった。押収量は約19kg(前年比53%減)と半減した。

※3 指定薬物は、平成27年4月に「輸入してはならない貨物」に追加された。同年の不正薬物全体の摘発件数は1,896件と、過去最高を記録したが、指定薬物の摘発件数(1,462件)がその約8割を占めた。

薬種別にみると、亜硝酸イソブチル等の亜硝酸エステル類が約7割と大半であった。亜硝酸エステル類の多くは9ml程度の小瓶入りの液体であり、蓋を開けて気化したものを吸引して体内に摂取する方法で乱用されるものである。 

密輸形態については、国際郵便物を利用した密輸入が約9割を占めた。また、密輸仕出地については、中国からの密輸入が約6割を占め、引き続き最多となった。


2017(平成29)年は、規制の効果があり、摘発数は激減し、ラッシュの統計数は表れてきません。

🔊平成29年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況(平成30年2月23日)詳細

 https://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/safe_society/mitsuyu/cy2017/ka300223a.htm

 

しかし、ラッシュの比率が格段に高いことはうかがえます。

これは、ラッシュのもたらす作用が、他の薬物とは異なり代替されるものとはなり得ないため、根強い需要があるからではないかと考えられます。

ただ指定薬物制度は本来、麻薬や向精神薬などと類似する精神毒性を持つ薬物の供給を規制するものであったはずなのに、ラッシュのような比較的人体的危害の少ない薬物の摘発に、これだけの労力と費用が割かれていると考えると、その妥当性に疑問を抱かざるを得ません。

なお29年度以降、ラッシュの摘発は表面化していませんが、アンダーグラウンド化している可能性も想定されます。

また、覚せい剤などの摘発率が増加していることは、ラッシュのような比較的人体的危害の少ない薬物の規制の強化が進んだため、そのような薬物の使用へとスライドしていった可能性も考えられます。

 

🔊全国でラッシュ輸入事件の処分が続く(弁護士小森榮の薬物問題ノート)

 https://s.webry.info/sp/33765910.at.webry.info/201508/article_4.html

🔊「ラッシュ」についてまとめ(弁護士小森榮の薬物問題ノート)

 https://33765910.at.webry.info/201601/article_4.html

🔊「ラッシュ」輸入でいきなり逮捕(ぷれいす東京スタッフ日記)

  http://ptokyo.org/blog/post/6857

2020年7月30日更新